2013年2月21日木曜日

『ボーイスカウトの効用』


日本銀行 広島支店長 水口 毅 様より寄稿頂きました。
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『ボーイスカウトの効用』

広島県の西端、山口県との県境に「弥栄(やさか)ダム」という立派なダムがある。中国電力による水力発電にも利用されている。その名を見て、両県以外の出身のボーイスカウト経験者は、思わず「いやさかダム」と読んでしまう。
「弥栄(いやさか)」は、古い日本語。ボーイスカウトの世界では「万歳!」「おめでとう!」という意味で、今も頻繁に使われる。
近く、ボーイスカウト経験者が「弥栄!」と叫びそうな「大イベント」が山口県で開催される。世界各国からボーイスカウト3万人弱が集まる「世界スカウトジャンボリー」が山口県で開催される。その機会に広島県の平和公園にも平和学習のために来てくれる。2015年の夏と聞いている。
他方で残念な情報もある。わが国で、ボーイスカウトに新たに参加する子どもたちが少なくなって、いわば「絶滅危惧種」になりつつある、というのである。
ボーイスカウトは素晴らしい活動である。各国でボーイスカウトの経験をもつ素晴らしい指導者もたくさんいる。クリントン元大統領がそうだ(奥様のヒラリークリントンはガールスカウト出身)。広島で最も著名なボーイスカウト経験者は、吉川晃司だろうか。
子どもにボーイスカウト参加を薦めるのは、多くの場合、子どもの親だ。私の場合もそうだった。
親は子どもに立派に育ってほしいと望むだろうが、子どもを大統領やイケメン俳優にしようと考えてボーイスカウトに入れることもなかろう。
「ボーイスカウトの効用」を、もう少し庶民的に自分の経験も踏まえて紹介してみたい。

1.   親が週末を平和に過ごせる
何を隠そう、自分がボーイスカウトに参加させられた理由はこれだった。
兄と4歳違いの自分は、幼稚園から小学校の学齢期の頃の自宅で、極めて頻繁に兄弟でじゃれあい(広島弁で「もぶれつき」)、取っ組み合いの喧嘩をし、窓ガラスや置物を次々と破壊した。平日は学校があるから良いが、週末はたいへんだった。
これが、兄弟を両方ともボーイスカウトに放り込むことによって、一気に解決した。我が家では、ボーイスカウトは親の平和を作り出していたのである。

2.   食べ物の好き嫌いが無くなり、自炊できるようになる
自分は、小学校1年の頃までは食べ物の好き嫌いが少しあったそうだ。例えば、酸っぱい梅干しが苦手だった。

これが小学校2年でボーイスカウトの小学生グループである「カブスカウト」に参加してキャンプに出掛けて一転した。大いに身体を動かして、山小屋のようなところに辿りついた後にいただく食事の美味しいこと!
小学校6年生から中学校3年生までの「狭義ボーイスカウト」の世代に入ると、そこではキャンプなどの場で自ら料理を作り、食べる。人間が生きる際に、美味しいご飯を作れることがいかに大切かを、深く体験する。
自分は、社会人になってから全国各地に支店をもつ組織に入ったし、子どもの受験やら何やらの都合で単身赴任が必要になることも多い。単身赴任はさびしいが、食事の面で困らないのは、完全にボーイスカウトの経験のおかげだ。

3.違う世代の子どもと遊べるようになり、社会性が身につく
学校生活や塾・習い事の教室では、子どもたちは「同学年」と一緒に過ごすことが多い。違う世代の子どもが一緒になる機会は、クラブ活動ぐらいになってしまっているのではないだろうか。
自分の経験で思うのは、上記の「狭義ボーイスカウト」の時代、つまり小学校6年生から中学校3年生の時代である。この時期、子
どもたちは、心身ともに急速な成長期にある。このため、下っ端の小学校6年生と中学校3年生の体力差・能力差は極めて大きい。
「班」が幾つか作られ、その「班」のなかで先輩が後輩を厳しく指導する。厳しさだけではなく、指導の中身、説得力も大切だ。これらがうまくいくと「班」同士の競い合いで勝てるようになり、「成功体験」が得られるのだ。

4.   「助け合い」の実践を通じて、思いやりのある子どもになる
ボーイスカウト活動は、もとからお金はあまりないし、場所もない。そのため、場所は教会やお寺から貸していただくことが多い。自分の場合は、教会に場を借りた集団に入っていたので、日曜日の午前中にはその教会でのミサに参加することが義務だった。このため意味はさっぱり分からないが、讃美歌をある程度覚えている。
また、教会とボーイスカウトのタイアップで「バザー」を開いたり、募金活動を行ったりした。駅前で首から「募金箱」をつりさげて「赤い羽根共同募金よろしくおねがいしまーす」と声を張り上げていたころが懐かしい。

5.   たくましく育ち、これからの厳しい時代でのサバイバル能力が高まる
ボーイスカウトで何と言っても
楽しいのは、キャンプだ。自然のなかでテントを張って、仲間たちと一緒に生活する。
文明生活とは違う。このため、さまざまな能力が必要になる。料理をするための「かまど」を自分たちで作るとか、燃料を得るために薪拾いをするとか、ロープや鉈(なた)が使えるようになるとか。
また、自然は気まぐれで、危険もいっぱい。怪我をしたときの応急処置など、「窮地からの脱出方法」も学んでおかないといけない。ボーイスカウト経験者であれば、ホイッスル(笛)でSOSが吹けるはずだ。
私たちの普通の生活で笛でSOSを吹くことはまず無い。しかし、地震などの災害が多いことも考えると、「備えよ常に」をモットーにしているボーイスカウトの精神は、非常に貴重だと感じる。
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以上、再来年に大イベントを控えた当地のボーイスカウト活動が再び盛んになることを祈りつつ、乏しい経験から「ボーイスカウトの効用」について書いてみた。
学齢期のお子さまをお持ちのお父さま、お母さま。だまされたと思って、一度お子さまをボーイスカウトに参加させてあげてください。十年後、二十年後にそのお子さまが、きっと「弥栄(いやさ か)!」(=バンザイ!)と言える人生を歩んでいることと思います。

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水口様 貴重な体験を掲載頂き感謝しております。
今後とも、ボーイスカウト広島県連盟にお力添えよろしくお願いいたします。